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スポーツに打ち込む選手のケアと学生トレーナーの養成にまい進

スポーツ健康学部スポーツ健康学科
泉 重樹 教授

  • 2018年5月28日 掲載
  • 教員紹介

学生時代は本学ボクシング部で汗を流していた泉重樹教授。「ケガをせずに、全力でスポーツに打ち込んでほしい」と、選手の気持ちを理解した上で、学生たちのサポート役に尽力しています。

ケガしない体づくりに向けた実践的なトレーニング指導

専門はスポーツ医学で、日本体育協会公認のスポーツ指導者( アスレティックトレーナー)として、スポーツに打ち込む学生たちのケアと、学生トレーナーの育成に取り組んでいます。

スポーツ医療の現場では、ケガの治療は医師が担当し、理学療法士が日常生活に支障のない状態まで体の回復をサポートします。しかし、選手がスポーツ現場の第一線で活躍するには、卓越した運動機能が求められます。その機能回復や改善の手助けとなる運動療法やセルフコンディショニング指導を行うのが、アスレティックトレーナーの役割です。

まずは選手の体の動きを見て、本人が気付きにくい動きのクセなどがあれば、補正に必要なトレーニングをアドバイスします。こうしたケガの予防ケアとパフォーマンス向上を目的としたコンディショニング調整、ケガをした際の応急処置、リハビリテーションなど、カバー範囲は広いです。

学内で月曜日と木曜日の夕方に開放している「AT(アスレティック・トレーニング)ルーム」は、スポーツ健康学部生の相談を受け付ける場であると同時に、学生トレーナーを養成する実習室でもあります。

学生トレーナーは、多摩キャンパス内にある体育会に所属し、部活動の中で選手のケアを行います。大学スポーツが盛んで、優れた実績を誇る体育会が多い法政の環境は、トレーナーの実践経験を積むために最適です。どの筋肉を鍛えれば効果的か、テーピングはどうすればよいかなど、選手にアドバイスするためのスキルや知識を実践的に身に付けていくのです。

生きる技術を教えた日々が教育への覚悟を決めさせた

幼い頃からスポーツが好きで、水泳や器械体操の教室に通い、中学2年から始めたボクシングは、25歳で全日本社会人チャンピオンになるまで続けていました。ただ、ケガが多く、常に近所の接骨院にお世話になっていました。自分をケアしてくれる院長先生の頼もしい姿を見ているうちに、将来は、スポーツ選手を助けるトレーナーになりたいと思うようになったのです。

トレーナーの公的資格はないため、まずは実践的なスキルを身に付けようと鍼灸(しんきゅう)師の資格を取得。2年間の臨床を行いながら、はり・きゅうの教員資格も得たので、北海道の盲学校へ3年間赴任しました。振り返ると、このことが、人生を決める大きな転機になったといえるでしょう。

視覚障がい者にとって、はり・きゅう、マッサージの技術は生計を立てるための数少ない職域です。教える側がその重みを受け止めて真剣に取り組まなければ、学生たちに「これしかないんだ」という気構えを持たせることはできません。どのように教えれば理解してもらえるのか、一人一人の状況に合った指導法を考えるという経験を経て、「教育現場から逃げちゃいけない。きちんと向き合おう」という覚悟ができたように思います。

教え続けるためには、自身の知識やスキルがさび付かないよう、ブラッシュアップが欠かせません。法政での教育と研究に加えて、トレーナーとして世界を相手に戦う選手に帯同するなど、学外活動でも腕を磨いています。

「実践知」を体現する環境でトレーナー仲間を育てていきたい

巡り合わせによって、教員として母校である法政に戻り、新設時からスポーツ健康学部に関われたことは幸運でした。設立から9年間の変遷を見てきましたが、スポーツを取り巻く時代の流れに対応した、質の高い教育を提供できる学部に育ったと感じています。

スポーツで求められるスキルは、年々高く、難しくなっています。強くなるためには、精神力や根性を鍛えるだけではなく、客観的なデータ分析に基づいたトレーニングや栄養・休養も必要です。理論を習得するだけでなく、自らの体を使って実践効果を体感しながら、課題を解決していくスポーツ健康学部は、法政が掲げた「実践知」をまさに体現している学部だと思います。2016年度にスポーツ健康学研究科が新設されたことで、トレーナーやストレングスコーチを目指す学生にとって、継続して学びやすい環境になり、いい相乗効果を生んでいます。

研究者としても、実習を通じて得たデータを客観的に分析し、年に1度は論文として成果を発表することで、社会に還元できたらと考えています。

プロアマ問わず、どんなスポーツ現場にも、アスレティックトレーナーの姿がある。近い将来、そんな日が来ることを期待しています。


高齢化が進む社会で、誰もが自由に体を動かすことを楽しめるように

スポーツの各分野にトレーナー仲間がいることもあり、学内の部活動に加えて、学外でも数多くのスポーツ競技をサポートしてきました。ここ数年、新体操のサポートに注力しており、2013年から2017年まで三大会連続して、ユニバーシアード(大学生向けの総合競技大会)での日本代表チームに関わらせてもらっています。2017年に開催された台北大会では、新体操団体チームのトレーナーとして帯同する機会をいただきました。団体チームは銀メダルを獲得することができ、選手と喜びを分かち合うことができたのはトレーナーとしてうれしい経験でした。

さらに、リオデジャネイロオリンピックからオリンピック競技に採用された7人制ラグビーや、デフバレーボール(聴覚障害者によるバレーボール競技)女子日本代表チームもサポートしました。デフバレーボールの女子日本代表チームは、2017年にトルコで開催されたデフリンピックで金メダルを獲得したので、帯同トレーナーを務めた教え子の晴れ姿をみることができたことはとても印象に残っています。また現在もパラリンピック競技のゴールボール(視覚障がい者を対象とした、3体3で目隠しした状態でボールを投げ合う球技)の男子代表チームでもトレーナーを務めています。

一般向けの活動としては、八王子市の事業としてエスフォルタアリーナ八王子(八王子市のPFI事業による体育館)でシニア向けの健康促進トレーニング講座を開催・監修しています。「立ち上がる」「座る」「持ち上げる」など、日常生活の基本動作をスムーズに行うために、体幹と下肢を鍛える健康促進トレーニングなどを指導・提案しています。

こうしたトレーナー活動から知り得た経験知は、最新の臨床データとして公開し、できるだけ多くの人と共有することも、研究者としての使命だと考えています。そのための手段の一つとして、学会発表や論文執筆は毎年欠かさずに仕上げることを自分に課し、地道にですが続けています。

スポーツ選手もシニア世代の方々も、ケガをすることなく、自由に体が動かせてこそ、張り合いのある生活を楽しめます。私にできることはささやかですが、スポーツをしたいのにできない人が一人でも減るように、いつまでも現役トレーナーでありたいです。健やかな体づくりを通じて、高齢化が進む日本社会をサポートする一端を担いたいと願っています。

ATルームでのトレーニング指導。パフォーマンスを向上しつつケガを予防するため、正しいフォームをアドバイスする

泉 重樹 教授

スポーツ健康学部 スポーツ健康学科

1971年千葉県生まれ。法政大学経営学部経営学科卒業後、筑波大学体育研究科スポーツ健康科学専攻博士前期課程修了、同学人間総合科学研究科スポーツ医学博士後期修了。スポーツ医学博士。北海道立北海道高等盲学校での教諭経験を経て、2008年より本学現代福祉学部、2009年からはスポーツ健康学部の専任講師に着任。2013年より准教授、2017年より教授。現在に至る。台湾・台北で開催された第29回ユニバーシアード競技大会では新体操の帯同トレーナーを務めるなど、学外活動も精力的に行っている。

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