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物語構造に着目して 情報を探し出すしくみを構築

情報科学部コンピュータ科学科
赤石 美奈 教授

  • 2020年8月11日 掲載
  • 教員紹介

「知識を活用したい」という思いから、データベース管理を研究している赤石美奈教授。図式を用いて、文章に含まれる言葉の関連性を整理するなど、創意工夫に満ちた研究を展開しています。

キーワードにできない情報をどうやって検索するか

大量のデータを管理して必要な情報を探し出す、データベース処理に携わる研究を続けています。

一般的なデータ検索はキーワードを入力して行います。しかし未知の事象や抽象的な言葉など、キーワードにしづらい情報はどうやって検索すればよいのでしょう。その疑問が、私の研究の源泉です。

大前提として、コンピュータは人間が書いた文章の意味を理解できません。人間は、童話と取扱説明書の違いを認識できますが、コンピュータにとっては単なる文字情報の羅列です。そんなコンピュータに自動処理させるには、文章内の情報を機械的に類型化するルールの構築が必要です。そこで着目したのが「物語構造」です。

物語の構造をシンプルに分析すると、最小要素はキャラクター(登場人物)です。要素が集まるごとにイベント(出来事)、シーン(場面)、ストーリー(物語)が構成されます。最終的に、複数の物語がまとまって「神話の世界」などのワールドモデル(世界観)ができあがります。この構造になぞらえて文章を分解することで、あらゆる文献を類型化するルールを作れるのではないかと考えたのです。

ポイントは、文中の「言葉」をキャラクターと見なし、一つの文章をイベントと見なすことです。その上で、文章で使われる言葉の関係性を図式化すれば、キャラクター相関図のように、一つ一つの言葉がどのように関係し合っているのかが明らかになります。

図式化すると文章の分解や再編成もしやすくなるため、特定の言葉にひも付けられた言葉だけを抽出するなど、柔軟な操作も可能になります。

例えば図1は、1550 ~ 1650年の100年の史実を図式化し、織田信長に関連する贈答の記録を抽出したものです。贈答の記録を追うことで、当時は誰が重用されていたのか明らかになり、勢力関係が浮かび上がります。

この手法の有用性を高めるべく、検証を繰り返しながら、研究を深めていきたいと考えています。

図1「贈答」に基づく織田信長と歴代天皇の人間関係。 織田信長に関連する「贈答」に関する記録を抽出す ると、当時の人間関係が浮かび上がる

文理の垣根を越えて知識を活用する術を探究

これまで、人工知能(AI)を活用してコンピュータに小説を書かせるプロジェクトに参加するなど、さまざまな分野をまたいで研究を展開してきました。題材としたテキストの種類も、ギリシャ神話などの文学作品から日本史、ニュース記事、人工衛星の設計議事録まで、多岐にわたります。理系学部で情報処理に従事しながらも、数値データよりテキスト情報を扱っている方が多いかもしれません。

文系と理系はそれぞれ異なる世界観を持っていますが、お互いが歩み寄って融合することで、刺激的な化学変化を生み出します。せっかく15もの学部を有する法政大学にいるのだから、他のキャンパスの教員や学生と協力し合った研究もしてみたいですね。文理をつなぐ橋渡し役として、一端を担えるのではないかと期待しています。

研究を通じて、数々の知識を有効活用したい―。その思いの集大成として、いつかミュージアムのシステムづくりに携わり、文化方面でも研究を役立てたいと考えています。

例えば、興味のおもむくままに順路を自由に選べたり、「次はこれを見たらいかがですか」とガイド表示してくれるような、ダイナミックな展示システムが実現できたら、新感覚のミュージアムになると思います。そうやって能動的に楽しめる工夫を施すことで、知識を享受する喜びも増すのではないかと、思いをはせています。

データ解析の参考資料として集めたテキスト群。1000編を超える星新一全作品集から、歴史を記した史料まで、多様な文献が並ぶ

研究と教育を一体として人と社会の未来をつくる

情報科学部の先生方は、意思決定の判断が速やかで、変化を柔軟に受け入れてくれる雰囲気が魅力です。着任当時から「思うままにやってください」と、いろいろなチャレンジを後押ししてくれていることに感謝しています。

一方、学生は素直ですが控えめで、少し物足りなさを感じるところがあります。大学での学びの積み重ねが、社会に出てから花咲くための「実践知」につながります。自分の可能性を信じて、自力で道を切り開く力を養ってほしい。だからこそ、学生に対しては自力での課題解決を促し、見守るスタンスでいることを心掛けています。

私にとって研究と教育は一体です。若い頃は研究に夢中で、教育に費やす時間を惜しむ気持ちがありました。しかし、そもそも研究者になれたのは、私を育ててくれた人がいたからこそ。そのありがたみに気付いてから、学生と過ごす時間は、教育であり、研究でもある輝かしい時間になりました。

教育は「未来を育てる仕事」です。人と社会の未来づくりに関われることを誇らしく感じています。

(初出:広報誌『法政』2020年8・9月号)

新型コロナウイルス感染予防でキャンパス入構が制限されている間は、オンラインで授業や研究ゼミを展開。研究室の学生と外出自粛の日々を乗り越えようと意気込みを語り合った

情報科学部コンピュータ科学科

赤石 美奈 教授

北海道大学大学院工学研究科電気工学専攻博士課程修了。博士(工学)。静岡大学情報学部助手、北海道大学工学部助手、東京大学先端科学技術研究センター助教授、准教授、同大学史料編纂所准教授、同大学院工学系研究科准教授などを経て、2012年に法政大学情報科学部教授に着任。現在に至る。
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