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三角港キャノピーと出島表門橋について(デザイン工学部都市環境デザイン工学科 渡邉 竜一 特任・任期付講師)

  • 2020年10月23日 掲載
  • 教員紹介

2019年度に受賞・表彰を受けた教員の研究や受賞内容を紹介します。

渡邉竜一 特任・任期付講師は、下記の通り受賞しました。

「平成30年度第5回青葉工業会 奨励賞」(青葉工業会(東北大学工学部同窓会))
業績「出島表門橋および架橋プロセスのデザイン」

「第5回まちなか広場賞 奨励賞」(一般社団法人国土政策研究会 公共空間の「質」研究部会)
作品「三角東港広場羽末の公園(うみのこうえん)(熊本県宇城市三角町)」

「2019年度長崎市都市景観賞 公共施設部門都市景観賞」(長崎市都市景観賞表彰実行委員会)
作品「出島表門橋・出島表門橋公園(江戸町)」

三角港キャノピー(まちなか広場賞)

JR熊本駅から観光列車であるA列車に乗って約40分、終着駅が三角駅です。列車を降りて駅に着くと90年代に出来た海のピラミッドと大きな駐車場の風景が整備前の状況でした。地域の方々がイベント活用でき、駅から天草方面へのフェリーの乗り換え待ちの観光客が滞在できる公園、駅前空間へ整備しようというのが、「三角港港湾海辺空間創造工事」です。その整備の中の三角駅からフェリー乗り場までを誘導するための通路キャノピーが本プロジェクトです。その平面を描くと自然と円弧になる。円弧の平面のキャノピーをいかにシンプルに設計するかを追求しました。

設計条件は、三角駅からの海への眺望を遮らない高さに屋根を設定すること、将来のバス停留所の屋根を兼用する可能性を考慮し、天井高4.5mとすること以外は、自由でした。海のピラミッドの幾何学的な強い造形、有機的な天草のしまなみの曲線の風景とのバランスから、シンプルでフラットな屋根とし、支柱には鋳鋼を採用。2ピースをネジ込みで接合し、上部は放物線形状に機械加工、下部は鋳肌を残しつつ地面になじむ形状とすることで、支柱と地面がやわらかく有機的に接続します。支柱頂部に光学ガラスの照明を設置、支柱に鋳鋼を採用し、港の風景を演出することとしました。夜の蒼く暗い海辺の風景の中で、支柱の照明が点状に連続する静かな風景を想像したからです。

昼間は、反対に支柱が地面から重厚感を持ってそびえ、屋根が浮いています。構造システムとしては、支柱頂部をピンにして、円弧の平面線形を利用して、柱を内側に偏心させ、全体で構造をバランスさせるリングガーダ−のような構造です。遠景からは規則正しい列柱とシンプルな円弧が海のピラミッドを含んだ港の風景と調和します。反対に歩行空間としては支柱の通り芯が互い違いに偏心していることで、支柱が不規則に体感され、多様な変化にとんだ空間となります。

三角港キャノピー

出島表門橋(長崎市都市景観賞)

日本列島の南端に位置する長崎、出島。かつて鎖国時代、唯一世界とつながっていた小さな人工の島です。そこに橋長4.5mの小さな石橋が架かっていました。明治期の中島川変流工事によって扇型の一部が削られ、川幅は30mに広がり小さな石橋は撤去されました。

2017年の段階では石橋そのものの復元は叶わないため、発掘調査を元に特定された昔の橋の位置に、新しい現代の橋、出島表門橋は架橋されました。出島築造から382年の今年、130年ぶりです。日本初の鉄、コンクリート、石の橋はすべて長崎から始まっています。現代の設計および施工技術で架けられる橋がまた一つ長崎の歴史に誕生しました。 

設計コンセプトは2つ。一つ目は、出島の風景を尊重するため、上部に構造体を出さず、適切なスケールの構造を目指すこと。歴史的な風景の中で、慎ましやかに周囲の風景、文脈と調和するよう設計することは重要です。

2つ目は河川内の橋脚設置をおこなわないこと。河川構造令では、橋脚の河積阻害率は一般的に5%以内、基準径間長は計画高水量(500㎥ /sec 未満)と川幅(30m 以上)から決まります。対象計画地の中島川では、基準径間長は15mで、河川内に橋脚を1つ計画できました。しかし、過去に大水害があったことや河川景観上美しくないことから、橋脚の設置をおこなわないこととしました。出島表門橋は橋長38.5m、幅員4.4m、主径間33m、側径間5.2mの2径間鋼連続版桁橋です。出島側に橋台を設置できないため、対岸の江戸町側に2つの支点を設け、橋台をカウンターウエイトにしてスパン33mを支えます。力がバランスすることで桁高を抑えることが可能になると同時に、単純桁の時よりも約25%出島側の反力を押さえることができます。さらに反力を押さえるため、製作キャンバーも設定しました。

概念的には、死荷重時に片持ち、活荷重が作用した際に2径間連続桁へと構造システムが変化します。正確には風荷重作用時のアップリフト対策から、死荷重時にも出島側に50kN程度の荷重を作用させることとしています。地元長崎の造船技術を取り入れ、船で海上輸送を行い、陸路は多軸台車で出島まで運搬、架橋時には数千人を超える人が見守る中、一括で架設されました。長崎の都市軸(長崎街道)を意識した舗装の連続性、建物のスケールを尊重し、桁に開口を設けつつ、補剛材としての機能をもつ水平方向のフィンによって橋のスケールを細かく分割しています。既存歴史建造物との調和を考え、銀鼠色の粒子的な光沢感をもった塗装を施しています。

出島表門橋

法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科

渡邉 竜一 特任・任期付講師(Watanabe Ryuichi)

1976年山梨県生まれ。1999年3月東北大学工学部建築学科卒業。2001年3月東北大学大学院工学研究科都市建築学専攻修士課程修了。

2001年-2008年土木デザイン事務所(東京)勤務。2008年フリーランス -土木コレクション「Hands」展 (展覧会企画および空間デザイン)土木学会。2009年-2012年 Ney & Partners(ベルギー)勤務。2012年- 株式会社ネイ&パートナーズジャパン代表取締役。2017年- 法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科特任・任期付講師。橋梁を中心とした土木構造物の設計、民間メーカーとのプロダクトデザインなど構造(技術)的アイデアを軸に、デザインと構造が融合した切り口の提案を行っている。国内でのプロジェクトは、札幌路面電車停留所、三角港キャノピー、長崎駅前広場、出島表門橋、鉄道駅舎、ペデストリアンデッキ、製品開発(キャノピー、標識柱、ストリートファニチャー)、ジャパンハウスロンドン階段(構造設計)など。


※所属・役職は、記事掲載時点の情報です。

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