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理論力学・実験力学と計算力学(デザイン工学部システムデザイン学科 竹内 則雄 教授)

  • 2020年10月19日 掲載
  • 教員紹介

2019年度に受賞・表彰を受けた教員の研究や受賞内容を紹介します。

竹内則雄教授は、「APACM Award for Senior Scientists」(APACM: The Asian Pacific Association for Computational Mechanics)を受賞しました。

業績「アジア太平洋地域の計算力学への多大な貢献(指名時65歳以上の人に授与)」

計算力学について

私の研究内容は計算力学に基づき、様々な現象をシミュレーションにより解明することです。計算力学は、コンピュータ・シミュレーションを有力な武器として問題解決を図る学問で、コンピュータと密接な関係があります。20世紀の半ばに出現した計算機は、その後、高速化ならびに大容量化が進みましたが、それに伴って理論的あるいは実験的研究だけでは十分究明することができなかった力学、物理現象をコンピュータの力を借りて研究する新しい分野が台頭してきました。これが、「計算力学 (Computational Mechanics)」です。計算力学は、コンピュータの発展とともに、進歩してきた学問といえます。

最近、新型コロナウィルスの関係で、理化学研究所が次世代スーパーコンピュータ「富岳」を用いて解析した、会話や咳などの際の飛沫の拡散状態に関するシミュレーション結果がTVや新聞などで公開され、ご覧になった方も多いかと思います。これは、単純なCGによるアニメーションではなく、物理法則に基づいて計算された結果をCGにより可視化したもので、計算力学を用いた応用例といえます。このような結果をとおして、感染防止対策をどのようにしたら良いかが見えてくるわけです。

計算力学は、この例のように、一つ一つの課題の本質を見極め、課題の解決を図る学問といえます。近年では、計算力学的アプローチから新しいタイプの材料が開発され、実際にものを作って確認されるというケースも生まれてきています。また、「ものづくり」にあたって、安全性の照査に欠かせない道具にもなっています。

研究への取り組み

さて、私の研究室では、安心・安全をキーワードとして計算力学の利用方法や新しい手法の開発を行っています。当初は、高分子溶融体の流れや津波といった、流体力学諸問題の解析手法の開発を行っていました。特に、津波の予測では、計算効率を上げる必要があり、新しいアルゴリズムの開発が必要でした。このとき開発した手法は、多くの研究者によってさらに改良されて使われています。

その後、地盤災害などの問題に興味を持ち、地滑りやトンネルの崩壊といった課題へ計算力学を応用する研究を進めました。これらの課題は、すべりとか崩壊といった不連続な現象を解明する必要があります。連続体を基礎とする従来の手法では、なかなか困難な課題ですが、東大の川井忠彦先生が開発した手法を学ぶ機会を得て、それを地盤災害に応用することで、例えば斜面がどのようにすべるか、トンネルがどのように崩落するかといった安全性を照査する方法を開発しました。

しかし、この方法では、壊れるところまではシミュレーションできるのですが、壊れた後、どのように崩れていくかまでは解析できませんでした。現在は、健全な状態から、破壊が進み、崩壊状態となった後、崩れていくという現象をシームレスに解析できる手法を「マルチステージ破壊シミュレーション」と称して他大学の研究者と共同で開発を進めています。

計算力学は、工学問題ばかりでなく、様々な分野の問題に対しても応用可能です。私も、工学問題に使っていた技術を生体力学に応用し、股関節や膝関節の接触シミュレーションを行ってきました。現在は、私が開発した手法を用いて他大学の医学部、工学部の研究者と共同で、顎関節の接触圧解析システムを開発しています。図1は、現在開発中のシステムによる解析例です。

さて、災害を防ぐ努力を怠ってはいけないのは確かですが、自然を対象とする災害を未然に防ぐには限界があり、事前の避難が必要です。そのためには、避難シナリオを作成して事前に訓練しておくことが大切です。このために、災害状況に応じていくつかの避難シナリオを作成し、AIにより効果的な避難行動について検討するといった研究も進めています。

顎関節の接触圧解析

受賞に当たって

これまでの計算力学への貢献に対して、2019年12月に、APACM (The Asian Pacific Association for Computational Mechanics )より、“APACM Award for Senior Scientists”を授与されました。これは、3年に1回、アジア太平洋地域において計算力学に多大な貢献をした、受賞時点で65歳以上の人に対して贈られる賞です。これまでの計算力学に関わる活動や研究に対してひとまず評価いただけたと感じています。

計算力学に関する国内の学会としては、「日本計算工学会」があります。一方、国際的な組織として、IACM (International Association for Computational Mechanics)があります。IACMは、世界をアメリカ、ヨーロッパ-アフリカ、オーストラリア-アジアの3つの地域に分けて管理しています。今回の授与組織APACMは、アジア太平洋における地域組織として1999年に設立された協会です。

IACMでは2年毎に国際会議を開催しており、2022年には、パシフィコ横浜で開催される予定です。計算力学の国際会議としては最大の会議で、国内外から3500人ほどの参加が予定されています。2022年は私が定年で法政大学を退職する年でもあり、長年研究してきたこれまでの研究成果を発表できればと準備を進めているところです。

法政大学デザイン工学部システムデザイン学科

竹内 則雄 教授(Takeuchi Norio)

中央大学大学院理工学研究科修士課程土木工学専攻修了。工学博士(東京大学)。東京大学助手、明星大学教授を経て1999年法政大学工学部土木工学科教授に着任。2004年同学部システムデザイン学科教授。2008年理工学部機械工学科教授、2014年より現職。元日本計算工学会会長(2008~2009年度)。不連続性体を中心とする計算力学諸問題のシミュレーション手法の研究・開発に従事。


※所属・役職は、記事掲載時点の情報です。

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